地域の「やっかいもの」から「欠かせないもの」に。畜産を変える、「竹」を使った新飼料「笹サイレージ」
牛で実証、豚にも活用
手入れが行き届かなくなった放置竹林が社会的に問題となるなか、竹の有効活用を目指す取り組みが各地で始まっています。きのこや水稲育苗の培地への利用、クッキー生地やぬか床など食品への利用などがありますが、家畜の飼料への利用もその一つです。
竹笹をパウダー状に粉砕して発酵させた飼料「笹サイレージ」は、伐採して枝や葉がついたままの竹を粉砕機に投入して粉末にし、糖蜜を加えて撹拌機で混ぜて作ります。その後圧縮し、ロール状に成形。フィルムで包装し、1カ月ほど保管・発酵させて飼料にします。
笹サイレージの開発に当たっては、宮崎県畜産試験場が2011年より着手、牛に笹サイレージを与えると、通常のエサで育った牛よりも、肉質やうまみが向上するなどの効果があると判明。和牛関連の企業や農場などと取引があり、竹材調達から製品の供給までの体制が整っている大和木材工業(都城市、田中浩一郎社長)が量産化に踏み切りました。
笹サイレージの牛への効果がにわかに注目されるなか、豚にも活用できないかと養豚分野では初めて給餌を試みたのが弊社・観音池ポークです。弊社では、2017年1月より笹サイレージの実用化を目指し、試験を重ねてきました。その結果、現場レベルでも豚が好んで笹サイレージを食べる(嗜好性が高い)、豚舎の臭いが軽減されるなどの改善がみられ(図1・2)、併せて行った肉質分析や食味アンケートもおいても好影響を示す結果を得ています(図3~6)。


笹サイレージ。竹笹をパウダー状に粉砕、発酵させて作ります。

糖蜜の香りもあってか、嗜好性が高く、エサの食いつきは良好です。
一石二鳥を凌ぐ効果
竹は日本各地に分布し、身近な生活資源として利用されてきました。成長が早く繁殖力も強い貴重な再生可能資源ですが、近年、プラスチック素材などの普及により、放置される竹林が問題になっています。竹林は、繁殖力の強さから他の植物の成長を阻害する恐れがあるだけでなく、地下茎が浅い場所で平面的に広がるため、地盤を緩くし、大雨や地震などで地滑りを起こす危険性があります。笹サイレージの利用が軌道に乗れば、放置竹林という地域の課題解決はもちろん、獣害の減少、飼料の国内自給率の低迷への歯止め、畜産経営の低コスト化といった一石二鳥を凌ぐ効果が期待できます。
観音池ポークでは、これまでに宮崎大学指導のもと自然由来の炭素飼料・木酢酸(ネッカリッチ)、さらに同大学と宮崎県畜産試験場との共同研究により食品工場から排出されたパン粉主体の端材をリサイクル飼料として利用し、豚特有の臭みが少ない、サシが入った甘みのあるやわらかい肉質の豚肉づくりを実現してきました。今回の笹サイレージの活用により、さらに肉質がよく、地域の環境保全にも貢献できる、新たなブランド豚肉を創出できると考えております。観音池ポークの今後にぜひご期待ください。

放置竹林の解消、国内自給率の向上などに効果が期待されます

地域にも貢献できる、新たなブランド豚肉の創出を目指します
図1・2 笹サイレージ給与による肥育豚の悪臭軽減効果
笹サイレージ給与による効果として、「豚舎の臭いが減った」といった現場の声がありました。これをアンモニアガス濃度等、客観的な指標を用いて検証しました

図3 笹サイレージ給餌による脂肪酸量の比較
笹サイレージを与えた豚の枝肉(試験区)と与えていない豚の枝肉(対照区)の脂肪酸(ステアリン酸、オレイン酸)の量をそれぞれ測定し、比較したところ、笹サイレージを食べさせた試験区が対照区に対し、ステアリン酸、オレイン酸量ともに高い数値となりました。
※ステアリン酸、オレイン酸は不飽和脂肪酸と呼ばれる種類の脂肪であり、低い温度でも融解する特性から、それらが多く含まれているお肉は口の中に入れた瞬間に口内の体温によって脂肪が溶け始め、旨みを多く感じられます。

図4 笹サイレージ豚肉と一般豚の食味について
消費者140名に、笹サイレージを与えた豚の枝肉と一般豚の枝肉をともにしゃぶしゃぶで食べ比べてもらったところ、笹サイレージを与えた豚のほうが「とてもおいしい」「おいしい」と答えた人が多い結果になりました。

図5 笹サイレージ豚肉に対する購入意識について
消費者140名に、笹サイレージ豚肉が販売されたら購入するかをたずねたところ、全体83.6%が「購入する」と答えました。

図6 笹サイレージ豚肉の購入理由について
笹サイレージ豚肉を「購入する」と答えた人に、その購入理由をたずねたところ、「環境に優しいから」と挙げた人が39.8%と最も多く、次いで31.3%の人が「品質が良さそうだから」との理由を挙げました。